持続可能で高付加価値な茨城農業を
創る:JAやさと有機栽培部会

JAやさとは茨城県の中央部に位置し、筑波山、加波山の麓に広がった場所で農畜産物を生産しています。そこに有機栽培部会があり、31人の会員全てが有機野菜を栽培しています。

 有機栽培は化学肥料や化学合成農薬に頼らず、動植物質の肥料や天敵動物・防虫ネットなどを使って、おいしくて安心できる作物を栽培する農法です。CO2排出量を減らせる取り組みとしても、農水省の提案する『みどりの食料システム戦略』で、2050年までに耕地面積の25%(100万ha)を有機栽培とすることが目標として掲げられています。

 JAやさとは、これまで45年にわたって東都生協(東京都)などを介してお客様に直接野菜を提供してきました。1995年、お客様に提供していた『やさと野菜セット』が大人気で、毎週5,000セット以上の注文がありました。しかし、そこまで大量に注文があると野菜を揃えきれない時もありました。それでも注文し続けてくれたお客様に対して、お礼も兼ねて有機栽培の野菜をセットに加えて発送していました。それが好評だったことから、1997年に有機栽培部会が立ち上がりました。

 同じ頃、JAが有機栽培用の農地、農業機械、研修所を整備し、新規就農希望者に応えられる場として「ゆめファームやさと」を作り、現在に至ります。有機栽培部会に所属している31農家の半数以上は、この「ゆめファームやさと」で学んで新規就農した移住者で、平均年齢40歳代半ばという比較的若い部会です。
 研修畑では、肥料は基本有機たい肥、農薬を使用しない代わりに防虫ネットなどを使っています。たい肥は周囲の畜産農家が提供していて、化学肥料や化学合成農薬などを使わない分だけ、手間はかかりますが生産資材コストが少なく済むようです。

 「ゆめファームやさと」での有機栽培の研修期間は約2年。その間、JAが用意した農地を化学肥料や化学合成農薬に頼らない有機栽培用の畑へ変えていき、研修期間が終わったタイミングで有機野菜が出荷販売できるようにしています。
 教える側は「ゆめファームやさと」から巣立った先輩有機栽培農家が中心。研修中の新規就農者が迷ったときに研修畑にかけつけてアドバイスする仕組みなので、先輩農家側の負担も少ないようです。取材時も研修畑に行くと、ネギと葉物野菜などが栽培されていました。有機栽培で一番大変な除草作業もきちんと手をかけてやっていました。ただ、あまり除草しすぎず、自然循環型の畑を目指しているといいます。
 

■有機栽培部会の岩瀬直孝部会長に話をうかがいました
 Q:有機栽培のメリットは?
 A:有機栽培をやり続けていくと、畑が徐々に良くなります。例えば、里芋。有機栽培を始めたころは葉っぱをほとんど虫に食われてしまっていたのが、最近ではそんな被害が全然なくなってきています。ヨトウムシが卵を受け付けて孵化してもすぐにいなくなる。マルチを剥がしてすぐを見ていると、甲殻類の虫などバチルス菌に感染し、白くなってほとんど死んでいるんです。こういったことが、年数を重ねるごとに効果として見えてきています。

 Q:そうなるまでにどのくらいかかりますか?
 A:有機に切り替え、3年待てれば状況は好転していく経験をしてきました。有機栽培部会に入ってJAS有機の認証をとるにも3年かかるので、「ゆめファームやさと」での研修がスタートした時点で、有機栽培の土作りを始めます。そうすれば、土が良くなった時点で本格的な有機野菜の出荷販売を行うことができます。

 Q:部会として行うメリットは?
 A:この環境作りは1農家だけでは難しいんです。周囲に同じような有機農家が集まった方がやりやすく、効果も得やすいし、そうすることで機械の共有化も可能になっています。

 Q:有機たい肥はどうしていますか?
 A:たい肥作りの段階で完熟たい肥にしていくのはなかなか難しく、時間と手間がかかります。畜産農家から有機たい肥の原料ふんを直接入手できてもストックする場所が限られ、完熟までなかなか待てないのが現実です。周囲の家からの匂いに対する苦情が出ることもあります。有機栽培農家によっては、完熟に必要なたい肥攪拌場所をなかなか作りにくいのだと思います。有機栽培部会で完熟たい肥を用意するのが最適解ですが、コスト面でまだまだ実現できない現状です。

 Q:『みどりの食料システム戦略』では培耕地面積の25%を有機栽培とすることが目標値になっています。
 A: みどり戦略が目標にする有機栽培25%は、正直言うと夢のまた夢だと思います。一般的に、現在の(慣行)農業では化学肥料と農薬は不可欠なものと考えられているので、慣行農業から有機栽培に切り替えるのは無理だと思っています。われわれ有機栽培部会のメンバーは最初から有機栽培しか知らない人が多いから実現している現実もあると思います。

 Q:有機栽培の今後の取り組みについて教えてください。
 A:消費者に対して現状をきちんと伝えられていないと考えています。例えば、残留農薬基準、遺伝子組み換えの野菜の表示問題など課題は多いのですが、それを全面に出してPRするというのも、現実は難しいところがあります。
 

■有機栽培生産者の鈴木さんにお聞きしました
 Q:有機栽培に取り組んだ時期と理由は?
 A:「ゆめファームやさと」で研修を始めたのが9年目前、独り立ちして7年になりました。収益は少しずつ伸びています。やさとに来る前は東京で建築の現場監督をしていたのですが、笠間に住んでいた現在の妻と知り合い、実家の田んぼの手伝いなどをするうちに農業に興味が沸いてきたことがきっかけです。

 Q:現状を教えてください。
 A:現在はネギ、小松菜など年間10品目程度を2ha程度の土地で生産しています。有機栽培は大変、やる前から無理というイメージを持つ人が多いように感じますが、慣行農業と比べてすべてが大変だとも思っていません。それよりも、安全・安心でお客様にも自信をもってお勧めできるものを作れている充実感の方が大きいと感じています。

 Q:さらに有機栽培野菜を広めるためには?
 A:有機野菜が必要以上に高いという印象を持っている消費者も多いと思います。また、有機野菜をあらわすマークも海外のものを含めて種類が多く、一体何を示すマークなのか伝わっていないと感じています。表示統一はやはり必要ですし、有機JASマークの意味も同様に正しく理解されることが大事ではないでしょうか。自分たちは現在、無農薬でやれていますが、有機JASイコール無農薬だと誤解の部分があるし、理想ではありますが完全無農薬を大前提にしてしまうと厳しい場面もあるなと思います。

 Q:たい肥はどうされていますか?
 A:たい肥は地元の畜産農家から購入しています。たい肥の消費者である我々と養豚農家の減少などを考えると、地域での循環系の維持も大切だと思っています。

 お二人の話を伺っていると、有機栽培は手間はかかるけれど、常にお客様顔を意識して高いモチベーションを持って取り組まれているように感じました。持続可能で高付加価値な農業とは何かをあらためて考える直すきっかけになればと思います。次回は、暖かくなったころに、除草作業や害虫駆除作業などをレポートしてきたいと思います。

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