これからの農業について(3) 
谷口信和先生、八木岡会長対談

■第3回:JAグループ茨城の戦略を知ってもらうには?

対談の様子3

八木岡:JAグループ茨城としては、JA大会をきっかけに、これからすべきことを実行していかなければなりません。その際に、自分たちが考えていることを、地方のJAや関係する企業・団体の皆様、そして一般の方々にどうやって伝えていけばいいでしょうか。そのコツのようなものがあれば教えていただけますか?

谷口:政策の中に魂が入っているかどうかが一番重要です。人々を動かすために、いいところだけ取りだして映像などで見せてもだめです。有名人を連れてきて、田植え、稲刈りをやっていますだけの体験や映像紹介ではなく、厳しい側面も見せて初めて感じてくれることがあると思います。田植えの体験レポートより、台風の被害現場で「これだけの雨水が、ここの田んぼを覆うことが無かったら、一体どこに行っているでしょう?」という見せ方をすることの方が大事です。
 野菜についた青虫も子供に見せないのではなく、無農薬のため青虫だらけになっている畑も見てもらいながら、自然とどう折り合いをつけて落とし所を見つけるかという体験してもらうべきです。そうすれば子供が人間関係で悩む前に、自然との対話での失敗や、失敗から生み出した知恵を学ぶ機会を得ることによって考え方も変わってくるはずです。いいとこ取りのPRを止めてリアルな状況をきちんと見せるのが大切ですね。
 みどり戦略についても、なぜこれが必要になったかを十分に伝えることが重要なのに、未来の姿ばかりを訴えています。今をきちんと見るべきであり、未来を見るためにきちんと過去を見つめることが大事ではないでしょうか。

八木岡:確かにいいイメージだけを消費者に植え付けようとしてしまいます。リアルな現実を伝えることでファンを増やしていくというやり方ですね。

谷口:そうです。例えばコロナ報道を見ていると、新宿や渋谷で飲んでいる人ばかりを映像で報道しているけれども、現実には皆それなりに考えて行動しています。どこかに行くにしてもマスクをして混雑状況を気にしながら、最終的に行くかどうか決めています。若者のワクチン接種を後回しにしたけれど、募集した途端に前夜から長い列を作って並んでいました。マスコミは危機をあおるように飲んでいる風景ばかりを報道しているけれど、ああなってはいけません。マスコミが狭い世界を都合よく見せていることで間違った政策に結びついてしまっているように見えます。

八木岡:なるほど、単なるわかりやすさやウケ狙いになってはいけませんね。

谷口:これに対応して戦略を作る側も、一方向の報道に惑わされずに正しい解決策を見つけることができます。直近のいい事例として港区のワクチン接種がありました。夜の8時から12時まで、そして金曜日に接種することで会社勤めをしている人たちの本当のニーズを汲み取っていると思いました。いくら会社が副反応に対して休みをくれると言っても様々な理由でためらう人がでてきます。でも金曜日に接種することで週末は確実に身体を休めることができます。これが現実の人々の動きに合わせた政策だと思うのですが、国はこれができていませんでした。ワクチン接種については市町村の動きの方が柔軟でした。

八木岡:本質は何か?ですね。

谷口:そうです。これを農業で考えると、農家の所得水準がもっと上がれば農業も変わります。みんな外資系企業に行きたがるのは収入が高いからです。1980年代アメリカはレーガン政権のスターウォーズ計画で宇宙空間への防衛に力を入れました。NASAの人たちがそれを支えたわけですが、有能なスキルを持った人を集められたのは賃金が高かったからで、今はその知能がGAFAなどに流れています。オーバーな話かも知れませんが、自分の労働が正当に評価されない産業に人は集まりません。きちんと利益を確保できる、価値が認められるようにしなければなりません。最低水準でなく正当な利益を生む価値があるのが農業だということを、農水省は言葉にすべきです。EUで農民のデモが起きるのは自分の仕事に誇りを持っている一面があるからなんです。

八木岡:その価値については、JAも周囲にきちんと伝えていく必要がありますね。そのために協同組合が存在していることをきちんと認識しないとだめですね。これからのJAグループのあり方としてヒントになることは何かありますか?

谷口:JAの協同組合という考え方の重要性です。コロナで一番印象に残ったのは子ども食堂のあり方でした。私は子ども食堂に対して2つの間違った認識があると思っています。一つは満足にご飯を食べられない子供が集まるところだという認識です。親が食事を用意していってくれるけれど、一人で食べることにためらいがあり、みんなで食べることが楽しいから子ども食堂に来ている子供が多数だという現実。こうなると母親は子ども食堂に行って食べなさいと言いにくいでしょ。もう一つは高齢者で、これも同じ。デイサービスは週に1、2回で目的は誰かと話したい。そう考えると地域にとっての農協も同じ目的で機能する存在であるべきではないでしょうか。この人は組合員、准組合員でお金を払ってもらえる人と考えるのは間違いです。もっと広い視野で地域を支えているのは農協だというくらいに考えるべきです。

八木岡:私も新しい地域のあり方と、そこでのJAの役割は何かと再定義する時期だなと考えます。

谷口:そうするために現場に任せて声を聞くことが重要になります。現場はよく知っているのに、現場を知らない人間が集まって、すぐに横展開だというような施策は間違っています。子ども食堂の例のようにちょっと来て話せる場をどう作るかを考えることが大事です。そしてその場には食べ物があることは重要ですよ。昔から火の周りに人が集まるというのは食がそこにあるからです。コロナが深刻なのはその場さえ無くしているからだと強く感じます。

八木岡:なるほど、事件は現場で起きているという話ですね。話を聞く場については参考になります。

谷口:こういった話をJA大会当日にしたいなと思います。私は当日1つだけ大事なことを言えと言われたら、やっぱり人の育成だと思っています。よくいう「多様な担い手」という言葉も、担い手と多様な担い手が2つあるのがおかしいと思うんです。多様な担い手をどう育てるか、この機会に話ができればと思っています。

八木岡:ありがとうございます。

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