これからの農業について(2) 
谷口信和先生、八木岡会長対談

■第2回:みどりの食料システム戦略を有効なものにするために

八木岡:日本の農業従事者の8割が60歳以上です。今後は若手2割で現在の生産量を維持していく必要があります。高効率な農業と合わせて、農業にとって脅威となっている気候変動問題に対処していくために、地球温暖化への対応も必須となっています。八木岡会長JAグループ茨城として持続可能で高付加価値な農業を実現していかなければなりません。その施策として農水省は『みどりの食料システム戦略』を発表しました。
 内容的にはどこから手を付けて、どう計画を具体化していけばいいのかと悩み始めています。

谷口:いきなりみどり戦略を提示されても「できるんですか?」という反応になるし、現在有機農法を進めている農家にとっては「なんだこれ」と思っています。現場で実際にやっている人が「ちょっとここは違う」と言って議論できる環境が整備されていないのは問題です。

八木岡:そういう印象を農家も強く持つと懸念しています。

谷口:みどり戦略がEUの政策を後追いで真似しているところも問題です。すでに追いつけないほど差がついているのに、EUのモノマネになってしまっています。物事には順番があり、たくさん収穫できる技術を身につけた上で初めて品質を上げていけるわけです。病害虫への対策などもできている上で農薬使用量を減らす議論になるのに、いきなり減らせと言われても誰もついていけない。谷口先生時代に合わせた現実的で合理的な技術を持って、それをどう発展させていくかというプロセスが必要なんです。今回の戦略は、いきなりという感覚を多くの人が強く感じてしまっているのではないでしょうか。

八木岡:EUの『Farm to fork』が手本にあるようですね。EUの成長戦略としての欧州グリーンディールへの対応として位置づけているように、経済自体を持続可能なものにするという強い意志が全体の背景にありますね。一方で日本の場合には農業従事者の人口減、高齢化に待ったなしの状況に加えて地球温暖化対策と、崖っぷちの状況で急にみどり戦略が出てきました。否定せずに、どういう順番とやり方で実現していくか、現実的に考えていく必要があります。どう考えていけばいいでしょうか?

谷口:日本もいくつもの優れた実績があります。そのやり方をうまく活かしていくことを考えるといいと思います。1970年代、日本で一番食用米として高単収で収穫できたのはなんと弘前でした。1反で約13俵の収穫があったのに、不味い米と言われて終わった過去がありました。北海道も収穫量で言えば成績が良かったのに、量だけ収穫できても食べて不味いと言われて相手にされなかったわけです。
 しかし今、飼料米として作るとすればどうでしょう?収穫量をあげるノウハウがそこに残っているはずで、それを学び直す価値はあるはずだと思います。北海道はこの土台ができていることで、環境に適応できる品種ができたとき、一気に伸びました。元々持っていた日本のノウハウを見直し、行政がそれを反映した政策にすることで現場はやる気がでる。作る本人が「これならやれる」という気になる技術、ノウハウを添えて政策を提案すべきです。そうすることで現場は動き始めます。

八木岡:なるほど。急に出てきた戦略に驚かず、実行していく農家の目線で、いかにやる気になってもらうかを考えることが大切なのですね。そして、過去はできなかったけれど状況が違って役に立つという収穫量の話や、現在のテクノロジーが加わることで実現できる方法などを見直してみることも現実的ですね。そういう目線で取り組ことを実践していきます。

谷口:みどり戦略では十分に説明されていないのですが、農業がCO2を減らすのに最も貢献できるのは、たとえば食料自給率を大幅に引き上げ、輸入食料や飼料を国産に切り換えることなのです。
 ある研究者の報告によると、アメリカから飼料用とうもろこしを輸入した場合と国産の場合を比較すると国産の方がCO2排出量は10%ほど少ないのです。生産の段階ではアメリカの方が大規模で、遺伝子組み換えとうもろこしを使用していることから農薬や化学肥料の投入量が少ないため、CO2排出量は国産よりかなり少ないのですが、何と言っても太平洋を船舶で渡ってくる間の排出量が大きいため、国産の方が排出量は少ない結果になっています。
これは多くの輸入食料や農産物にも当てはまりますので、日本の農業と食料にとっては自給率向上が温暖化対策の最重要な武器となります。その上で化学肥料と農薬の使用量を少しずつ減らすということが重要だということになります。

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