平成23年07月27日放送

急性虫垂炎とその診断について
   茨城西南医療センター病院
放射線科 部長 和田 光功
司会:

急性虫垂炎とはどのような病気ですか?

和田:

虫垂に急性炎症が起きた状態です。一般に「盲腸」といわれている疾患で、正しい病名が急性虫垂炎です。下腹部痛を起こす疾患は多数ありますが、このうち手術が必要な疾患として最も頻度が高く重要な疾患です。

司会:

虫垂とは体のどのへんにあるのですか?

和田:

小腸と大腸の移行部は右下腹部に位置します。大腸の最初の部は袋状に垂れ下がっており、この部を盲腸といいます。虫垂はこの盲腸からさらに細い筒状あるいはひも状に伸びた長さ数cm、直径が4〜5mmほどの構造です。ですから、虫垂の隣にある盲腸に炎症が起こる盲腸炎と虫垂炎は別な疾患という事になります。

司会:

虫垂炎の原因はどのようなものなのでしょうか?

和田:

原因がすべて判っているわけではありません。以前は虫垂の内腔がなんらかの原因で閉塞して、分泌物の貯留、細菌の進入がおこることが考えられていました。しかし、実際に閉塞があるのは虫垂炎症例の30〜40%であり、大多数は粘膜潰瘍が最初におこることが判ってきました。潰瘍の原因はまだ不明ですが、ウィルスや細菌感染などの可能性が考えられています。

司会:

どの年代に多い疾患ですか?

和田:

10〜20歳代に起こる事が最も多く、乳幼児や高齢者では比較的まれといえます。

司会:

どのような症状がでるのですか?

和田:

多くは腹痛、食欲不振、吐き気、嘔吐、発熱などを引き起こします。最初に起こる腹痛はみぞおち付近など虫垂の位置から離れた部に起こる事がありますが、炎症が進むと、痛みは右下腹部に限局してくる事がほとんどです。ただ、虫垂の走行はいろいろで、盲腸から内側に向かったり、下方に向かったり、時には上方に向かって走行したりしますので、痛みの部位は人によりばらつきがあります。

司会:

虫垂炎の程度は軽いものから重いものまであるのですか?

和田:

炎症が粘膜に限局するカタル性虫垂炎、炎症が虫垂壁全体に及んだ蜂窩織炎性虫垂炎、さらに壁に強い壊死がおきた壊疽性虫垂炎に分類されます。壊疽性虫垂炎では虫垂壁が破れることもあり、これを穿孔性虫垂炎といい腹膜炎の原因となります。

司会:

重症化しやすいのはどういう人ですか?

和田:

乳幼児では訴えがはっきりしない事や虫垂壁が薄く穿孔しやすいことなどのため重症化しやすいようです。また、高齢者では痛みがはっきりしない事もあり、診断が遅れ重症化の原因となっています。さらに、女性で妊娠中に虫垂炎になった場合、虫垂炎の症状を妊娠によるものと誤診したり、子宮による圧排のため痛みの位置が右下腹部から移動する事などで診断が遅れることがあり、重症化する危険があります。

司会:

虫垂炎は症状や診察だけで簡単に診断できないのですか?

和田:

虫垂炎と同じような症状を引き起こす疾患はたくさんあります。これらの中には手術を必要としないものも多く含まれるため、無駄な手術をふせぐという意味でも他の疾患との鑑別が重要です。典型的な一連の病歴と身体所見が認められる場合、診断はそれほど難しくないのですが、このような典型例は全体の50〜60%です。典型的でない場合も多く、古くは不要な手術が10〜40%あったという報告もあります。

司会:

鑑別しなくてならない他の疾患にはどのようなものがあるのですか?

和田:

数が多いので全部あげることは出来ませんが、重要な疾患として小児では腸間膜リンパ節炎や回腸末端炎などが、大人では大腸憩室炎や急性腸炎、尿管結石などの泌尿器科疾患など、女性では卵巣出血や卵巣嚢腫茎捻転、付属器炎などがあげられます。
それぞれの疾患についての説明は省略しますが、手術せずに直る内科的疾患も多数あるので、急性虫垂炎との鑑別は重要です。
以前、虫垂炎が疑われた小児の例で、実際は肺炎による腹痛であった症例がありました。腹部以外の疾患でも急性虫垂炎に似たような症状を引き起こす事があるのです。

司会:

では、どのような方法で診断の精度を上げることが出来るのですか?

和田:

近年はいくつかの補助診断法の発達により診断能が向上してきています。

司会:

虫垂炎の補助診断法にはどのようなものがあるのですか?

和田:

超音波検査やCTスキャンなどです。

司会:

超音波検査について説明してください?

和田:

超音波検査は文字どおり超音波を利用して体の内部を画像化することにより異常の有無を判断するものです。患者さんの負担が少ないことから下腹部痛の診断では、超音波検査がファーストチョイスといえます。ベッドに横になってもらいゼリーを塗り探触子というもので体の表面を探るだけですので、腹痛のある部などで若干痛みを伴う事がある以外は患者さんの負担は少ないといえます。ただ、超音波検査にも欠点があります。ひとつは体の深い部分では超音波の減衰が強く、悪い画像となってしまい十分な診断が出来ない事があります。また、腸管のガスが多い場合、このガスが超音波をさえぎり、病変をみえなくしてしまうこともあります。さらに、超音波検査は検査する技師あるいは医師の熟練度により診断の精度が異なるのも問題です。

司会:

CT検査はどうでしょう?

和田:

CTは被曝という欠点はありますが、太った方ではむしろ脂肪が病変をよく際立たせてくれますし、深部病変も描出可能で、炎症が広範になった場合には病変の広がりを確認するのにも超音波検査より優位です。また、より客観性があるという点でも優れていると思います。

司会:

超音波検査とCTはどのように使い分けているのですか?

和田:

体の小さな小児などでは超音波検査の欠点がでにくく、被曝の影響も考えると超音波検査がむいています。一方、体格の良い大人などではCTのほうが診断しやすい場合があると思います。
重症例で、病変が広い範囲に及んでいる可能性がある場合や、深部の病変も確認する必要がある場合は最初からCT検査を行う事もありますが、軽症例、中症例では最初超音波検査を行い、それでも確実な診断が出来ないときや、もう少し詳しい情報が欲しいときにCT検査を追加するというのが一般的です。

司会:

虫垂炎の診断がされたら、手術しなくてはいけないのですか?

和田:

よく、手術せず「盲腸をチラシタ」ということがいわれますが、急性虫垂炎も炎症のごく初期には抗菌剤により治癒することがあります。しかし、炎症の程度がより強い蜂窩織炎以上の場合、原則的には手術が必要です。抗菌剤により一旦直っても、炎症が再発する事がしばしば見られますので、重症化する前に手術により完治させるのがいいと思います。最近は従来の開腹による手術以外に腹腔鏡を使った手術なども行われているので、虫垂炎になった場合、治療の方法については担当の外科の先生と相談なさると良いでしょう。

司会:

今日は、下腹部の痛みの原因として大切な疾患である急性虫垂炎についてお話いただきました。お腹の痛みは日常的に誰にでも時々起こるものですが、いつもと違うような痛みが続くような時は、早めに近くの病院で診察してもらうと良いようですね。

和田:

そうですね。


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