平成17年10月26日放送

救急医療の中の予防医学
なめがた地域総合病院
麻酔科科長 藤井 猛雄
司会:救急医療というと、一刻を争う大きな病気やケガを連想しますが・・・
藤井:救急医療では、心停止に対する心肺蘇生や外傷に対する緊急手術といった場面を想像されると思います。確かにこれらは人の命を救うためには、非常に大切なことです。しかし、一旦心停止に至ると心拍を再開しても社会復帰が出来るのはわずか。また、大ケガすればその後の生活に大きな影響があります。
司会:大変深刻な事態ですね。しかし、起きてしまった病気やケガに対処するのが救急医療だと思っていましたが、それを「予防する」というのはどういう事ですか?
藤井:今まで、あまり強調されてこなかったことですが、実は救急医療の分野でも心停止や大ケガとなることを予防することは可能であり、非常に有効なのです。これから話す予防すべきことはどれもこれも当たり前と感じるかも知れません。しかし、社会全体がこれらを徹底すればかなりの心停止や大ケガを防げることになります。今回はそのお話しをしたいと思います。
司会:わかりました。では心停止を防ぐにはどうしたら良いのですか?
藤井:心停止に至る原因の多くは心臓の病気が占めます。したがって心臓の病気を減らすことが重要です。思春期以前の食生活ですら心疾患と関係してくるという研究結果があります。恐ろしいことに心疾患の原因となる動脈硬化自体、ごく若い時期から始まるようなのです。今の若い人が食事に気を払わないでいると将来心疾患が激増する恐れがおります。次に言うまでもないのですが、タバコは絶対に止めるべき悪習感です。日本ではやっと最近になって禁煙運動の盛り上がりがありますが、今のところ世界の先進国では最悪のレベルです。医療費を削減したいのであれば、まず喫煙者を撲滅するできです。タバコは心疾患、肺疾患を悪化させます。もちろんガンになる可能性も増大します。社会全体が喫煙習慣に厳しい目を向けていかなければなりません。
司会:では大ケガを防ぐにはどうすれば良いのですか?
藤井:大ケガをする大きな原因の一つが交通事故です。交通事故の死者数は最近少しずつ減っていますが、負傷者数はむしろ増えており、交通事故は減少していないと言えます。10代から50代での死因の上位には、交通事故による外傷が含まれています。外傷による死は無駄な死であり、社会的には働き手を失うなど大きな損失です。交通事故を減少させることは、これらの無駄な死を減らし、外傷による後遺症も減ります。
司会:しかし、万が一事故に遭っても被害が最小限ですむ様な工夫もされているようですね。
藤井:最新型の自動車は衝突安全性も格段によくなり、エアバックなども標準で装備されるようになりました。あるメーカーの技術者によれば時速50qの正面衝突であれば中の人間は無傷というレベルだそうです。しかし、シートベルトをしない状態でエアバックが開くとエアバックとの衝突により直接死亡する可能性があります。エアバックが開く時にはサッカーボールくらいの硬さになり、時速200qで人間の体にぶつかってきます。心臓や肺が致命的な打撃を受ける可能性があります。シートベルトをしていれば展開が終わってから体がぶつかるので、衝撃は最小限ですみます。このようにエアバックは凶器でもあるのです。子供やお年寄りはエアバックで死亡したりケガをしたりする恐れがありますので、前の席には座らせてはいけません。また、車の後ろの席でも必ずシートベルトをしましょう。後ろの席の人間がシートベルトをしていない場合、事故の際に外に放り出されて死亡する可能性が高くなります。また、固定されていない後ろの人間の体そのものが凶器となって、前席の人間まで傷つきます。
司会:メーカーも努力されているんですね。
藤井:先程、車の安全性が高くなったとお話ししました。整形外科の先生がよく言うのですが、最近、交通事故に関連する足の複雑な骨折が減っているようです。これは車の構造が改善され、足がはさまれる事例が減っているからです。ただし、大型トラックに乗っている方は、足が挟まれやすいことを覚えていて下さい。座席が高い位置にあるために、救出にも手間がかかります。大きいので安全だと考えるのは間違いです。大型トラックの運転手の方は、一般車両よりもずっと安全運転を心掛けるべきです。飲酒運転はもちろん論外です。死亡事故だけでなく大ケガも飲酒運転と関係があります。どんなに最新の自動車でも、飲酒運転でスピード違反をしてシートベルトをしていなければ高い確率で死亡することになります。
司会:自転車に乗るときはどうですか?
藤井:特に子どもでは頭部外傷を防ぐことから、自転車に乗るときはヘルメットをすることが薦められます。また、夜間には反射素材を取り入れた衣服や持ち物をもつことで車に気づかれやすくなります。とくに早起きの老人の方は目立つようにすべきです。
司会:では、家の中で気を付けなければならないことは何ですか?
藤井:家庭での事故は、成人よりも子どもにとって重大な結果を招くことがあります。普段から子どもがいる家庭では、いろいろな所に子どもの目線で目を配りましょう。間違って薬や毒物を食べるということは、子どもにはよくみられます。命に関わる毒物は家庭にはそれほどないですが、洗剤や化粧品、タバコ、おじいちゃんやおばちゃんの医薬品などは、子どもの手の届かないところに保管しましょう。農薬のように危険性が高いものは、鍵が付いた保管庫に入れておくべきです。あついお湯の入ったポットや鍋に触れることがないように、台所に子どもが入れなくする必要があります。また、子どもは異物をのどに詰まらせる、つまり窒息が起きやすく、死につながる重大な事態を招きます。とくに3歳未満児には小さなおもちゃなどを持たせないようにしましょう。
司会:そうですか。特に子どもさんの動きには注意が必要ですね。
藤井:子どもにとって、お風呂は家の中で最も危険な場所です。絶対に子どもを風呂に残して離れてはいけません。ごく短時間でも溺れてしまうことがあります。また、風呂の沸かしすぎで熱湯になっていれば、火傷を負うことになります。お湯に浸かると広範囲の火傷となり、命に関わります。水の事故を防ぐには、ある程度の年になったら水泳を教え、水に慣れると良いと言われています。
司会:お年寄りはいかがですか?
藤井:老人は転倒により、簡単に骨折します。家の構造を改めたり、手すりを設置したりすることが必要です。散歩や筋力トレーニングなどで足腰を鍛えると転倒が減らせるようです。
司会:いろいろ「緊急の事態」を防ぐ方法をうかがってきましたが、それでも救急医療が必要な場面になってしまった時のために心がけておくことは何でしょうか?
藤井:意識がない状態や急に倒れた人を見かけた場合は、出来るだけ早く人を集めて、救急車を呼びましょう。当たり前のようですが、意外にその場では出来ないものです。電話のそばに救急の連絡先(119番・かかりつけの病院の電話番号)、自分の住所、電話番号を書いておくと役に立ちます。

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