平成17年03月30日放送

傷ややけどを痛みなく早く治す簡単な方法
茨城西南医療センタ−病院
形成外科科長 知久 明義
知 久:今日は、ちょっところんで、膝を擦りむいたとか、包丁でちょっと指を切ってしまったけど、お医者さんに行くほどでもないといった小さな怪我に対する新しい治療の仕方について、お話ししたいと思います。
司会者:傷の治療といいますと、消毒して清潔なガーゼで覆って、濡らさないように気を付けていれば、自然に治ってしまうんではないですか?
知 久:そうですね、ほとんどの方がそう考えていると思います。ですから、傷というものは、まず傷自体がひりひりして、消毒がしみて痛くて、ガーゼをはがすとき、傷にくっついて痛くてまた血が出たり、さらに濡らさないようにするために、傷にビニール袋をかぶせて入浴したり、まあそういうものだろうと一般には思われていますね。
司会者:そうですね。
知 久:さて、新しい方法というのは、消毒をやめ、ガーゼの変わりにラップを使用し、入浴時も濡れてもかまわない、いやむしろ良く洗いましょう、という方法です。
司会者:それは今までの方法と全く逆ですね。
知 久:そうですね。今までの方法とは2つの点で異なります。まず1つは、傷は乾燥させないで、いつも湿った状態にしておくこと。2つめは、消毒薬で消毒することはやめて、入浴時によく洗いましょう、ということです。
司会者:それぞれをもう少し詳しく説明していただけますか?まず1つめの傷を乾燥させないということですが。
知 久:多くの方は、傷は乾燥させてかさぶたになると、治ると思われているようですが、それは間違いです。人間というのは、いや動植物はほとんどそうですが、皮膚の下の中身は、脂肪とか筋肉とか本来水々しい物なんですね。それが乾燥しないように皮膚というものでカバーされ乾燥を防いでるわけです。では、かさぶたとは何かというと、皮膚の下のお肉や血の塊が乾燥しただけなんですね。傷が治るというのは、障害された皮膚の細胞がその傷の部分で増殖して、皮膚を再生させることです。このとき、新しくできた皮膚の細胞が傷の上をはって歩いていかなくてはなりませんが、乾燥した地面の上は細胞が生きていけませんから、新しい細胞が増えていきません。すなわち、なかなか傷が治らないということになります。
司会者:なるほど、傷を乾燥させるのは良くないことなんですね。
知 久:そうですね、かさぶたがあると、その下に膿がたまって、傷が余計に深くなるということもしばしば見られます。また、傷のヒリヒリした痛みも乾燥が原因と思われます。傷に露出した神経の末端が乾燥して一部が損傷して痛みの信号を出すと考えられます。ですから、傷を湿った状態に保つと嘘のように痛みが消えます。
司会者:その湿った状態に保つための具体的な方法を教えてください。
知 久:家庭で簡単にできるのは、初めにも述べましたが、ラップを貼ってテープでとめておくということですね。時間がたって乾燥気味の傷には、市販の軟膏を少し塗ってから貼って下さい。 傷から出る滲み出しを滲出液というのですが、最近の研究ではこの滲出液の中に、皮膚を再生させる、すなわち傷を治すための因子が多量に含まれていることがわかってきました。ですから、この滲出液をそこに留めて置くことが重要なんです。ガーゼはやめたほうがいいですね。ガーゼは滲出液を吸ってしまい、傷が乾燥気味になりますし、交換する時に傷にくっついて痛いですし、出血することもあります。また、せっかくできた再生皮膚をはがしてしまうこともありますから。
司会者:軟膏はどんなものがいいんですか?
知 久:消毒薬の入ってない単純なものでいいです。わざわざ消毒薬の入っていないものと言ったのは、消毒薬が傷を治す妨げになっていることがあるからです。
司会者:消毒しないと傷にばい菌がつくんじゃないですか?
知 久:そう考えるのは、傷は常に無菌状態にしておかなければならないという前提に基づいているからですが、実際は無菌ではないし、その必要もありません。もともと人間の皮膚には多くの常在菌といわれる細菌がいて、皮膚を弱酸性に保ち保護しているわけです。細菌は毛穴や、汗腺と呼ばれる汗の出る穴にも存在していて、一度皮膚を消毒しても、30分もすればその穴からもこもこ出てきます。ですから、本当に無菌状態に保つには1日に20回も30回も消毒しなければなりません。実際は、そんなに何回も消毒しなくても傷は治っていくわけですから、菌が傷にいても問題ないわけで、要するに、菌がいても菌が悪さをせずに、傷が治ればそれでいいわけですし、噛み付かないとわかっている野良犬ならそこにいても、ほうっておいていいわけです。
司会者:でも、消毒しても悪いことはないですよね。
知 久:いえ、消毒薬が傷の治りを悪くすることがあります。
司会者:どういうことですか?
知 久:消毒薬はばい菌を殺しますけど、傷を治そうと増殖してきた幼弱な再生皮膚の細胞も殺してしまうんです。ですから、必要のない消毒を一生懸命するということは、わざわざ傷を治さないようにしているといえます。私の患者さんで小さなほくろを取った方がいました。小さなほくろは縫わないで、軟膏だけまめにつけてると皮膚が再生して1〜2週間で治るんですけど、1週間後に診察したら、ほくろを取った部分の組織が白くなって明らかに死んでるんですね。おかしいと思って「消毒しませんでしたか?」と聞いたら、ばい菌がつかないようにオキシドールで一生懸命消毒しましたっておっしゃるんです。ですから、消毒しなくていいですから、よく洗って下さいとお話ししました。
司会者:消毒しないで、洗ったほうがいいんですね。
知 久:そうです。水道水で洗うだけでいいです。入浴したときも傷を石鹸で洗ってかまいません。本来水道水は、飲むもので無菌で、傷の方がよっぽど汚いですから。まとめますと、傷は、消毒しないでよく洗って、乾燥しないようにラップで覆っておくと早く、きれいに治るということです。実は、今日話した内容は、最先端のことなので、こういう考え方で傷の治療をしている病院はまだ一般的ではありませんが、今後は、しだいに広がっていくと思います。

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